握手は出来ぬが石も投げぬ。



旧世紀の古(いにしえ)より延々と続くビアンカ派VSフローラ派の闘争は、デボラという神の悪戯まで加わってさらなる混沌の様相を呈する人類に課せられた永遠の宿業であり、各陣営は今尚終わりなき戦いに身を投じて自らの正義の正当性を訴え続けています。ビアンカ派です。


そんな中で、自らの正当性を高める為に他陣営に対するネガディブな意見を出すってのは世の中よくある話で、特に少数派の場合は劣勢の挽回を目指すとどうしても意見が先鋭化する傾向がありますし、ある程度はそれも仕方ないのかな、と多数派の余裕で上から目線で思っています。


そんな紛争の中で、個人的に「この意見に対して物申したい!」という話がありまして、文章にまとめてみました。様々な意見を総合して要約すると以下の通りで


「主人公は父の遺志を継いで母を救う為に旅をしているのだから、天空の盾を手に入れる為にフローラかデボラを選ぶのが当然。「どっちを選んでも天空の盾が手に入る」というゲーム的なお約束は別にして、「ビアンカを選ぶ」という流れは「天空の盾を諦める=両親を裏切る」となる以上、ビアンカを選ぶのは自分の個人的な感情を優先して両親を蔑ろにする行為


というちょくちょく見かけるビアンカ派へのディスリで、昔はフローラ派の意見だったのがデボラが出てきてからは姉妹派両陣営から飛んでくる石礫なのですが、私はこの意見に真っ向から反対したいです。


フローラが好きだからフローラを選んだのなら大変結構、デボラがツボな人もいるでしょうし、花嫁を選ぶ理由は人それぞれで勿論構いません。消去法で仕方なくって場合もあるだろうし、元々ルドマンとの約束があるからフローラって決め方でも、攻略で後々助かるからって理由でもいいと思います。


でも、天空の盾を理由に「フローラかデボラを選ぶのが正しい」と、もっと極端に言えば「もしビアンカの方が好きだったとしても、天空の盾を手に入れる為にはフローラかデボラを選ぶのが人として正しくて、ビアンカを選ぶのは人として間違っている」と主張するのは、私は絶対に正しく無いと思います。


私は決して「ビアンカを選ぶ=天空の盾を諦める=両親を裏切る」とはならないと思っていて、その根拠は、パパスが旅をする意味や、もっと言えば主人公の存在理由にあると考えています。


主人公の父であるパパスは、御存知グランバニア国の王で、大変な責任ある立場の人間です。同様に母のマーサも、魔界への門番たるエルヘブンの民である上に一人で魔界への門の開閉が出来る強大な力があるという、パパスよりも責任ある立場と言ってよい人間です。


そんなパパスとマーサですが、出会って互いに一目惚れをすると、マーサは駆け落ち同然にエルヘブンを飛び出して二人は結婚してしまいます。そして、マーサがミルドラースによって魔界に連れ去られてしまうと、パパスはグランバニア王の責務よりも妻を優先させ、マーサを探す旅に出てしまいます。


普通に考えて、二人の行動に問題が無いとは言えないでしょう。一国の王が公務と国民を放り出して身内を優先させるのは問題有りだし、マーサに至っては、魔界との門の開閉を司る力があるという事は世界の平和を左右しかねない責任のある立場なワケで、その責務より自分の愛を優先させるという行為は、現実に身近で同じような事が起き(て実際に迷惑を被っ)たら多くの人は批難するでしょう。マーサはずっとエルヘブンに隠れて居れば、ミルドラースに連れ去られなかったかもしれないのですし。


けれど二人は、他の全てに背いてでも、愛を選んだんです。道義的に正しくないとか倫理的に間違ってるとかの問題では無く、『ドラゴンクエストX』は、そんな二人の間に生まれた主人公の物語なのです。


そのような経緯で生まれ、幼年期は父と共に、青年期は父の遺志を継いで旅をしているパパスとマーサの子が、「母を救う為に好きな相手を選ばず愛を犠牲にする」のは正しいとは思えません。


父の遺志に背き、母を救う目的を諦めてたとしても、愛を優先する。それこそがパパスとマーサの子として生まれた主人公のあるべき生き方であり、それを否定するのは、パパスとマーサの生き方はもとより、その二人の生き方の結果として生まれた自らの存在意義の否定になると思います。


それが間違っているというのであれば、主人公は石像から復活した時点でグランバニアの王になり、妻を探し母を救う為の冒険を辞めて民の為に王政に専念すべきという話になりますが、そんな文句言う人いないですよね?


だから私は、「ビアンカを選ぶ=天空の盾を諦める=両親を裏切る」という御旗を掲げてビアンカ派を否定する意見は、間違っていると言いたいのです。ビアンカを愛しているのならば、例え天空の盾を諦め、父の遺志と母の命に背を向けたとしても、ビアンカへの愛を選ぶ。それは決して二人を蔑ろにする行為ではなく、むしろそれこそが二人の肯定だと思うのです。


とまぁ長々と語ってきましたが、最後に私の個人的な意見を申し上げますと、花嫁選びまでの冒険を経てフローラかデボラを選ぶ、というかビアンカを選ばない人間の気が知れないと思っています。


ただ、選択肢がある以上ビアンカ以外を選ぶのもゲーム的にはアリだと思いますし、他所に迷惑を掛けない限り人様の趣味趣向に文句を言うのは不毛という考え方です。両親が一目惚れして駆け落ちしてるワケだし、フローラかデボラに一目惚れして選んだという場合は「しゃーない」と言うしか無いです。


余談ですが、『ドラゴンクエストX』は「大切な人を救う為に旅をしていた結果世界を救う物語」で、俗に言うセカイ系に近いのかもしれません。


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