おジャ魔女どれみ鑑賞2



大学3年の時に行ったレポート発表の原稿を元にしたテキストで御座います。



粗筋

近頃、美空小学校の6年男子の一部には、放課後に集まる場所がある。それは、ひみつ基地。近くの空き地にある廃屋にみんなで集まって、他のクラスメイトのひみつの話をしたりお菓子を食べたりマンガを読んだりしていた。



そして、何よりの楽しみは、みんなで作っているグライダー。自転車をベースにパイプやさまざまな物を持ち寄り組み上げている。その中心は、宮前空。普段は引っ込み思案で目立たないけれど、彼は飛行機が好きだった。みんなで集めた素材を使って、『彼らの飛行機』を少しずつ組み上げる。みんな本気で飛ぼうと思っているわけではない。けれど、少しずつ形になっていく『彼らの飛行機』は、おぼろげながら、自分たちの飛行機で空を飛ぶという空想をさせてくれる。それを考えるだけで、みんな楽しかった。



宮前は好きな小説があった。それはアメリカの『STAY GOLD』という小説。飛行場の側に住む少年たちが自分たちの手で飛行機を作って飛ばそうとする話に、彼は自分たちを重ねていた。だからグライダーの名前も『STAY GOLD』にした。



飛行機作りに転機が訪れる。ひょんなことからもう一人飛行機に詳しいメンバーが増えたのだ。それを機に、彼らの空を飛ぶ夢は一気に現実化して行く。翼が厚い布で覆われ、機体に色が塗られ、『彼らの飛行機』は本当に空を飛べる気がしてきた。日に日に形になっていく飛行機を前に、宮前は嬉しくて仕方が無かった。そしていよいよ、週末に飛ぶメドが立った。



しかし、問題が起こる。彼らがひみつ基地で飛行機を作っていることが、先生に知られてしまった。ホームルームの時間に先生に問い詰められるメンバー。このままでは飛ぶことができなくなってしまうと思った宮前は、休み時間になるやいなや、一目散にひみつ基地に向かう。宮前がひみつ基地に向かったことを聞いたメンバーも、すぐに後を追う。授業はどうするんだと言った一人に、こう言い放って。




「そんなこと言ってる場合か!」








ひみつ基地で、宮前は一人でグライダーを飛ばそうとしていた。重く、彼一人の力ではひみつ基地から運び出すことすらできない。それでも彼は必死に運び出そうとしていた。そこにメンバーがやって来る。止められると思った彼は言う。



誰が何と言おうと、このグライダーは飛ばす!邪魔しないでくれ。

今しかないんだ!ここであきらめたら、一生後悔する。

僕は今まで何でも中途半端で、人に自慢できることなんて何にもなかった。

だからこそ、
これだけは最後までやり遂げないといけないんだ!





それを聴いたメンバーは「仕方ねぇな」と微笑み、宮前に加わる。グライダーは運び出され、坂の前に着いた。宮前はヘルメットをかぶり、みんなは操縦席の宮前を囲んで励ます。




しかし、そこに担任の先生と教頭先生が現れる。「こんなところで何をやっている!授業に戻りなさい!」「だいたい、子供だけで作った物が飛ぶわけがない!」と怒る教頭を見て、彼らはうつむいてしまう。




「やっぱりダメなのか」という空気が漂うメンバーの中で、一人が「行けーっ!」と叫ぶ。そして、その言葉に弾かれるように、みんなはグライダーを押す。教頭が慌てて止めに来るが、一人が体を張って止める。グライダーは坂を走り出す。担任の先生は坂を走り宮前に止まるよう言う。






「俺、行きます!」





先生は止まる。グライダーは坂を走る。宮前は必死にこぐ。みんなは言う。





「飛べ」
「飛べ」
「飛べ」
「飛べ」
「飛べ」
「飛べ」






グライダーは加速する。右の補助輪が壊れる。宮前が叫ぶ。





「飛べえーっ!」






グライダーがわずかに浮く。宮前の目が輝く。そこは、彼の目指した世界。












そして、グライダーは翼が壊れ、地に落ちる。





宮前は片足を骨折し、病院に運ばれた。他のメンバーは反省文を書かされ、さらに一週間のトイレ掃除。けれど、担任の先生はあまり怒らなかったし、みんなも何となく楽しそうだった。





 

その後、ひみつ基地は壊されてしまった。もう戻らない、彼らだけの時間、彼らだけの場所。けれど、あの時の思い出は失われない。塾に向かう途中、宮前は夕焼けの空を飛ぶ飛行機の姿に、あの『STAY GOLD』を見る。





 

「僕らの背中には、見えない翼が生えている。

僕らの背中には、大きな翼が生えている。

だから忘れないでほしい。

信じていれば、きっと空を飛べるってことを。

ずっとずっと輝いて。

STAY GOLD。」



 

嬉しそうに微笑み、彼は松葉杖をつきながら塾に入って行った。



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